食害から豊かな植生を守る取組

1 頂上での取組

天然記念物に指定された山頂草原群落では、三合目に少し遅れて2015年頃からニホンジカの食害が目立ちはじめ次第に深刻な状況になりました。このため、入山協力金などを原資に草原群落を3kmの獣害防止ネットで囲い、植物を保護する対策が始まりました。

ネットが登山道と交差する地点では金属のゲートを何か所も設置され、ドアを開閉して出入りすることになります。

また、樹脂製のネットは冬季の強風や積雪による破損を避けるため、雪が降る前の11月に地面に引き下げ、雪解けの4月に引き上げられます。この作業には市の職員や地元の有志の皆さんが何日も参加して行われます。

獣害防止ネットの効果は上の写真のとおりです。

【左の写真】のように、中央のネットを挟んでネット内側の左は様々な植物が生育しているのに比べ、ネット外側の右はまるで芝を刈ったゴルフ場のようで、いくつか見られる植物はニホンジカの嫌いな忌避植物です。

【中央の写真】ネットの内側では写真のようにルリトラノオやシモツケソウなどのお花畑が回復しつつあります。しかしこのように再生しつつある場所は残念ながら一部のエリアに限られます。

【右の写真】ネットの真ん中の大きな穴をご覧ください。ニホンジカが破ってネットの内部に侵入した穴です。山頂のネットはニホンジカの執拗なアタックにさらされているため、定期的な補修等のメンテナンスが欠かせません。しかしながらその対応も十分とは言えず、ネット内には多くのニホンジカが侵入し植生を破壊し続けています。

伊吹山で獣害対策の助言をして頂いている専門家によると、山頂においてニホンジカがネットへの執拗なアタックを行う原因は、ネット内にある灌木等のエリアがシカの住みかになっているためと言われており、その除去など新たな対策が求められます。

 


2 3合目での取組

伊吹山3合目は山頂と同様に、四季折々に様々な花々が咲くエリアです。特に7月から8月上旬にかけてはユリの仲間の「ユウスゲ」が咲き誇る草原をレモンイエローに染め上げる見事な光景が広がります。しかしながら2012年頃からニホンジカの食害が顕著になってきました。このため、地元上野区の住民有志で結成された「ユウスゲと貴重植物を守り育てる会」が伊吹山を守る自然再生協議会から材料の提供を受け、獣害防止ネットを設置し、植生の保護にあたっています。

ここでも山頂と同様に、晩秋11月にネットを全て引き下げ、雪解けの3月にネットを引き上げる作業をし、春から秋の花のシーズン中は概ね毎週1回、ニホンジカによるネットの破れを点検、補修し植生を守っています。

【左の写真】ユウスゲ(7月)          【中央の写真】カタクリ(4月)     【右の写真】ニリンソウ(5月)

3合目のネットは全部で5カ所設置され、写真のようにネット内では春にはセツブンソウ、カタクリやニリンソウ、初夏にはササユリやアヤメ、イブキトラノオ、夏にはユウスゲ、コオニユリ、オオバギボウシ、ハクサンフウロ、秋にはリンドウ、センブリをはじめとする実に様々な花が咲き競います。

しかしながら、ネットの外側ではクララ、イブキトリカブト、オドリコソウなどニホンジカの忌避植物がわずかに花を咲かせる程度です。以前のような広い範囲での豊かな3合目の植生を取り戻すためにも、現在のような部分的なエリアのネットによる保護ではなく、広く3合目を対象とし、さらにニホンジカでは破れないような耐久性のある金属柵での保護の対策が求められます。